村上春樹風にスポーツを語る(サッカー編1)

村上春樹的

ブラジルから来た鬼軍曹(ドゥンガ)

僕はその時、三十一歳になりその頃静岡で水色のユニホームを着ていた。あのアメリカでのワールドカップ決勝がフィレンツェでオマール海老のリゾットと一緒に飲んだ赤ワインだとすれば、この試合はブラジルのスラムで飲んだ気の抜けたコーラかそれ以下だ。歓声がため息に変わる。シュートを外した選手がニヤニヤと笑っている。やれやれ、またいつもの光景だと僕は思った。僕の仕事はここから始まる。

南アフリカでの後悔と再生(岡ちゃん)

「ベスト16おめでとう。PK戦はおしかたわね」と彼女はウイスキーのグラスを片手に言った。
「ありがとう。でも、僕は全力で選手選考をしたわけではなんだ。選手は全力でプレーしたのにかかわらず・・・」
「どういう意味?」
「代表の背番号なんて僕が決めているわけではないし、もちろん選手でさえ決めているわけでもない特に10番はね。背番号はおろか選手選考においても『彼ら』の意向が最優先される」
僕はウイスキーを一口飲み、彼女はグラスの氷を綺麗な人差し指でゆっくり回す。
「もちろんフランスの時の事は昨日のように覚えているさ。
あの時の事を昨日のように覚えているから、戦力にならない選手をチームに加えて試合の勝敗にあまり関係ない所で起用した。僕だって経験から学ぶこともある」
「でも、それを含めてサッカーなんでしょ」
僕はそうだと言って氷が溶けて薄くなったウイスキーをもう一口飲んだ。

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